草魚


利根川の中流域はソウギョという大型淡水魚産卵地として有名である。
梅雨の時季には、少し上流で一斉に産卵をするので、川岸は透明なイクラのような卵でぎっしりになる。
透明だから一瞬見えないのだが、子供が持つ粗い目の網で水草をかき回すと網の根本が折れるほど卵がいっぱいとれる。

当時の利根川の川沿いにはヨシだかアシだかススキだか、背の高い一年草に覆われていて、その中を視界が見えない状況で分け入るのは一つの楽しみだった。
そんな中には鳥が巣を作っているので、それを撃つためか散弾銃の薬筒なども落ちている。
安っぽい鮮やかな赤や青のそれは茶色の植物の中でとても目立った。
今考えるとそんな中をガサガサしていたら危険だ。

利根川は別名坂東太郎ともいわれ、日本有数の水害をもたらす川だ。
いまではすっかりおとなしいが、僕が小学生のころでも、台風の後の増水は土手が壊れるのではないかと恐ろしかった。
増水時には河川のアシはすっぽりと水に沈み、図工の時間にみんなで混ぜた絵の具のような色の水がドウドウと流れていた。

台風がすぎると晴れになる。
僕たちは、水が干上がった河川敷で、なぜかまだ流されずに立っているアシのあいだを走っていた。
すると突然目の前に巨大な魚が2匹横たわっていた。
増水の時にアシの間に隠れていたものが、川まで帰れなくなったのだろう。
少しでも水のあるところへと移動して、薄い水たまりに2匹たどりついたようだ。
胴体は丸太のように太く、体長は自分たちと同じくらい1メートル以上あるように見えた。
蠅が目の回りにたかっているが、体は堅く、恐る恐る小学生低学年の自分たちが2人のってもびくともしなかった。
暑い日差しで、上を見上げると黄土色のアシの間に青い空が見えていた。
目の前でデカい動物の死を感じた僕たちは急にそのソウギョのまわりに入り込んではいけない結界のようなテリトリーを感じ、ダッシュで逃げた。

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