カーキな視界/khaki vision 内海聖史個展 に寄せた文章


カーキな視界/khaki vision について

「絵画」という物質はどれくらいの時間で鑑賞者によって認識され、理解され、消化されるものなのでしょうか?
僕は、とても短い時間、たとえば1秒とか、2秒とか、それくらいの時間で、絵画も絵画の展覧会も消化されてしまうものなのではないかなと考えながら、制作をしています。
それは、制作にどれだけ時間を掛けようと、どれくらい多彩な要素を入れようと変わらず、そのバッサリと受け取られる残酷さが僕の思う絵画の面白さでもあります。
そして、その短い時間を少しずつ集めて加算されると、時には映画を超える長い時間を獲得する可能性があるのも絵画なのかなと考えます。

今回の展覧会「カーキな視界・khaki vision」では、その「断片的に鑑賞される絵画」のところに補助線を引き、「鑑賞された時間が蓄積される」と仮定します。
写真家・杉本博司氏の「Theaters」シリーズのように、「観た」という経験が網膜に蓄積します。
そうなると、全ての作品はカーキ色・グレー色になるという考え方です。(「Theaters」シリーズでは映画1本の「光」を写真に写すので、劇場のスクリーンが白くなる作品です。)
掃除機の中身のゴミは、粒子としてはカラフルな何かのカケラですが、集まるとカーキ色(土埃色)になります。
その様に、「展覧会という単位」で絵画を鑑賞することで、カーキな経験が網膜に蓄積すると仮定して作品を展開します。

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第1に大型作品(no.2023-01/カーキな視界・khaki vision)
赤、黄色、青の3色の作品で、1色のサイズがh2195×w10920×d46mm。
2色でh4390×w10920×d46mm。3色でh6585×w10920×d46mmとなります。
それらをMITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERY の空間に合わせて円柱状に展示します。
この作品は、エルスワーズ・ケリーの作品「赤・黄・青」(東京都現代美術館蔵)から着想を得ていて、シンプルな三原色の作品から全ての色彩へ繋がるところが興味深いです。
全ての色彩でもありながら、それが時間を持って蓄積されるとグレー・カーキ色になると考えています。

第2に虹色の作品です。(no.2023-02からno.2023-05)
虹色も上記作品と同様、赤から紫までの全ての色彩を有しています。
1画面で虹色に展開している作品と、分割画面で虹色の作品があります。
画面上で滑らかに色彩が移行する虹と、パネル面により色彩がガクガクと移行する虹とでは目に当たる刺激が違います。
それらも、画面上の色彩を目が追う事で、カーキ色が視界に堆積する事になります。

第3に壁に掛けられる大小の作品です。
「絵画を観る」という断片的な経験が展覧会として何点も重なると、結果視界にカーキ色が堆積するという事になります。
そして、多くの絵画は、画面の中にもカーキやグレーが入っている作品群です。
僕が今まで制作した作品も、それ自体はかなり鮮やかな色彩に見える絵画であっても、どこかに濁ったカーキ色やグレーを混ぜながら画面を造ることが多いのですが、今回はカーキ色を軸にした事で、視点が変わり、絵画の中のカーキ色が見えやすいと思います。
作品に対して得られる情報でも見える色彩が変わるのも興味深いです。

今回の個展では、会期中に一部作品を展示替えする予定です。
会期中の5月9日にロシアの戦勝記念日があります。
それなので、その前後に「赤・黄・青」(no.2023-01)の赤色を裏返し、ウクライナカラーに。
「グレー・青・黄色・赤」(no.2023-04)の黄色を裏返し、ロシア国旗の色に変わります。
ウクライナカラーのno.2023-01は目に見える画面のサイズが合計h4390×w10920×d46mmとなり、日本橋三越本店の吹き抜けにある「天女(まごころ)像」(像の高さ10m91cm(台含まず)、像の幅4m39cm)と同サイズになります。

ロシアのウクライナ侵攻は2022年の2月24日に始まりました。
5月9日はロシア戦勝記念日ということもあり、昨年2022年5月9日はロシアの侵略が激化する可能性が示唆されていました。
結果は軍事パレードが行われ、特に大きな侵略の拡大はなかったのですが、今年も何もないことを願っています。

2023年4月現在、毎日のようにネットやテレビでウクライナ侵略や、スーダン紛争などで戦地の状況が報道されています。
そこで映される場面は、戦火により土煙に覆われたカーキな風景が広がっています。

作品制作には多くの時間が必要なので、この展覧会の構想を始めた2021年にはウクライナ侵略はまだ始まっていませんでした。
作品とウクライナ侵略とまごころ像を結ぶことを考えた際、展覧会を予定している2023年5月にはこの侵略がとっくに平和に解決していて、構想を練り直しながら発表することになれば良いなと考えていました。
しかし、その侵略は終わりが見えず、まだ解決が見えぬままの作品発表になりました。

僕の作品は色彩や空間を扱っているので、基本的にはある特定のメッセージを発していません。
全て、絵画のあり方や色彩の関係性の問題に終始している作品です。
ただ、色彩はある関係性を保つとメッセージを持つ可能性もあり、今回のように選択をすればメッセージを孕んでしまいます。
そして、そのメッセージが何か暗澹たる状況を想起するものであれば、そこに見える色彩は暗く濁り、カーキ色になるかもしれません。

                                                 画家 内海聖史